Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
(アルバニ公ロバートの息子ね。ジェイムズの身代金を渋り、摂政の座で長く国を動かしていた、ずる賢い男だと聞いているわ)
甘い汁を十二分に吸った身体は醜かった。たるんだ顎の肉が、呼吸するだけでも揺れる。
「初めまして、アルバニ公マードックね。スコットランドについて、いろいろ教えて頂戴」
ジョーンは手袋を外して、手を前に出した。マードックがジョーンの細くて柔らかな手の甲に軽くキスをした。マードックの顔は、賢いとは言い難い。細い目からは野心は窺えるが、気迫が感じられなかった。
マードックがキスした手の甲には、マードックの鼻の脂がべっとりと付着した。太陽の光で輝く手の甲を、隠すようにジョーンはすぐに手袋を装着した。
ジョーンはマードックの後ろに立っている男に目をやった。ブラック家のジェームズ・ダグラスだ。ダグラスの父であるアーチボルト・ダグラスが三代ダグラス伯爵で、ダグラス城代だった。
ダグラスとマードックは、対照的な体格だった。年齢の割には手足が鍛えてあるように窺える。締まった身体を眺めていたジョーンと目が合うと、ダグラスが会釈をした。
「ジョーン、夕方から披露宴がある。疲れただろう。時間まで、ゆっくりと休むといい」
ジェイムズが優しい声を出す。ジョーンの肩に、ジェイムズが汗ばんだ手をまわした。
甘い汁を十二分に吸った身体は醜かった。たるんだ顎の肉が、呼吸するだけでも揺れる。
「初めまして、アルバニ公マードックね。スコットランドについて、いろいろ教えて頂戴」
ジョーンは手袋を外して、手を前に出した。マードックがジョーンの細くて柔らかな手の甲に軽くキスをした。マードックの顔は、賢いとは言い難い。細い目からは野心は窺えるが、気迫が感じられなかった。
マードックがキスした手の甲には、マードックの鼻の脂がべっとりと付着した。太陽の光で輝く手の甲を、隠すようにジョーンはすぐに手袋を装着した。
ジョーンはマードックの後ろに立っている男に目をやった。ブラック家のジェームズ・ダグラスだ。ダグラスの父であるアーチボルト・ダグラスが三代ダグラス伯爵で、ダグラス城代だった。
ダグラスとマードックは、対照的な体格だった。年齢の割には手足が鍛えてあるように窺える。締まった身体を眺めていたジョーンと目が合うと、ダグラスが会釈をした。
「ジョーン、夕方から披露宴がある。疲れただろう。時間まで、ゆっくりと休むといい」
ジェイムズが優しい声を出す。ジョーンの肩に、ジェイムズが汗ばんだ手をまわした。