Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
　ジョーンは馬車でずっと座っていただけだ。お尻は痛いが、疲れたという肉体的な疲労は全く感じていなかった。

「座りすぎてお尻が痛くなってしまったの。少しお散歩してもいいかしら」

　ジョーンはジェイムズの目を見て訊いた。

　戦場で活躍してきたジェイムズの身体は、無駄な脂肪がなく、引き締まっていた。陽に焼けた肌と白い歯が、魅力的と言えば魅力的かもしれない。

　ジョーンには、ジェイムズの魅力がよく理解できない。

　ロンドンの宮廷で噂話をしていた女性たちは、ジェイムズをハンサムだと好評する者が数多くいた。

　ジェイムズが独身で、将来スコットランドの王となるとわかっていたから、地位目当ての独身女性が目を輝かせていたのだろう。

　ジェイムズに惚れられ、運良く妻の座を勝ち取れたならば、『王妃』という地位が待っている。

　子を産めば、己の血をわけた子がスコットランドの王となる。顔や性格を抜きにしても、女性を惹きつける特典がある。プライドが高く、上昇志向の女性には、ジェイムズがたまらなく輝いた男に見えたはずだ。

　顔の見た目も悪くない。『格好良い』と思う個人差は、多少あるかもしれないが、一般的な目で見ても崩れてはいない。かといって、美男子というほどでもない。
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