Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
 客観的な視点で見れば、格好良い基準に達しているのだろうな、と理解はできる。

 ジョーンの心は、ジェイムズを魅力的な男と認定しなかった。

 ジェイムズを見ていても、何の愛情も湧いてこないのだ。

 格好良いと思う機会に恵まれなかったのか。ジョーンの価値観が他の女性と違ったのか。ジェイムズを知ってから一度たりとも、ジョーンは心を動かされなかった。

 ジョーンはイングランドから従れてきた騎士の一人に目をやった。

 ジョーンが乗ってきた馬車の前で、背筋を伸ばしてジョーンを見つめている騎士と視線が合った。

 金髪で青い瞳がきらきらと輝いている十七歳の騎士ケイン・ダウフィが、緊張した面持ちで立っていた。

 スコットランドのエディンバラ城に、初めて足を踏み入れたのだ。大役に気が張っているのだろう。

 ジョーンはジェイムズに触れられた肩が、すごく気になっていた。

 鎖で身体を縛り付けられたみたいに、身体の筋肉が固まり、動かなくなる。ジェイムズの手の汗で、ジョーンの肌が湿ると、寒気が走った。あまりジェイムズには触れて欲しくない。

「落ち着いたら、散歩をするといい。余は披露宴までに、いくつか仕事があるので、散歩には付き合えないが、迷子になるなよ」

 ジェイムズが、ジョーンの肩を抱いたまま歩き始めた。城のドアが開け放ってある。

 城の中に入ると、待ち構えていた大勢のメイドと執事に囲まれた。
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