Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
 ダグラスが慌てたのか、小走りでジョーンの前に膝をつくと、頭を下げた。

「機嫌を悪くされたのなら、申し訳ありません。私が申し上げたかったのは、どんな時でも陛下のお力になりたいということなのです。暗殺でも、何でも」

 ダグラスが語尾を強調した。顔を上げたダグラスの目が、ジョーンの顔色を窺っていた。

(ご機嫌取りしか脳の無い男は、嫌いよ)

 ジョーンはジェームズが視界に入らないように、身体を回転させた。窓に背を向けて立つと、ケインが出て行ったドアを眺めた。

「頼むときがあれば、ダグラスにお願いしましょう」

 退出してと、手を振ってみせると、ジョーンはスカートを持って椅子に戻っていった。ジョーンの後ろでは、ダグラスの遠ざかっていく足音が聞こえてきた。


        
 ジョーンが一段上にある椅子に座っていると、部屋のドアが開いてダグラスが出て行くのが見えた。

 椅子の肘掛に右手をつくと、ジョーンは身体の重心が右寄りに傾いた。

(ダグラスって、面倒くさそうな男ね)

 ケインも変な男に引っ掛かってしまったものだ。多分、ジョーンとの関係を知られ、脅されるまでいかなくても、圧力を掛けられているのだろう。
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