Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-

　警戒して、慎重に対応するべき人物なのかもしれない。

　扉が大きく開かれると、ケインが先頭で部屋の中に入ってきた。次に入ってきたのはウイリアムで、ローラ、エレノアと続けて入室した。

　ジョーンはケインの顔を見た。ケインもジョーンを見返すが、すぐに視線を動かした。

　足を止め、ウイリアムに一言だけ告げると、ジョーンに背を向けた。

　ドアに向かって歩き出したケインがエレノアとローラの前で止まった。会話をしているようだ。二十秒もなかったと思うが、ジョーンには長く感じた。

　ウイリアムが、ケインの動きを気にしつつも、ジョーンの右斜め前で足を止めた。ジョーンから二十フィートは離れた位置で、ウイリアムが立った。

　エレノアとケインが歩き始めた。ケインがウイリアムのほうへ向かい、エレノアがジョーンの左側にある棚を目指していた。

　ウイリアムが父親と一緒に立っていた同じ場所に立ち、落ち着きない表情でケインの動向を見守っていた。

　棚の前で足を止めたエレノアが、水が入っているボトルを手に取った。逆さまになっているグラスを引っくり返すと、ボトルから水を注いだ。