口吸い【短編集】
1*桜マジック*《髪、思慕》
あーーー…………。
「サトにーちゃーん!!」
丸めた卒業証書片手に、振り返ってみれば満面の笑みの紀美花がいた。
にぱー、と。本当ににぱーっていう効果音で昔から笑って、遠慮なく腰に絡み付いてくる。
「おいこら、そういう年でもねぇだろ」
軽くでこを手のひらで押すがびくともしない。
それよひもカーディガンを握りしめる。「イヤダー」っていくつだお前。
あぁ、ヨレヨレ決定だな。
*
卒業式_____。
案外感慨深いもんで、周りの涙に煽られてか少々センチメタルな気分になる。
校長の長い話も最後か、なんて思えばそんな気分も一瞬にして霧散したが。
式が終わって、周りの連中が写真撮ろう風潮になり皆がシャッターを次々と切る。
佐藤が鼻水足らしながら、写真撮ろうとか言ってくるもんだから思わず笑ってしまった。
「泣いてもないのに鼻水か、思い出だな」
「うるせぇっ!花粉症ってつれぇんだからな!」
携帯で画像を見ると、くしゃみ前の間抜けな佐藤にまた笑う。
佐藤との会話が沈黙してから、佐藤は突然話題を変えた。
「あのさーー紀美花とどうなんの?」
「は?」
何で何でお前が俺が紀美花のこと___。
「気づいてなかったのかぁ。いやさぁ、紀美花は勿論お前を見るとかなり喜ぶんだけどね。お前も少なからず顔、緩んでんだよなぁ。ぶっちゃけ、勘」
ティッシュを取り出して、へっくしゅん、と鼻をかむ。
紀美花の兄である佐藤に気付かれないように、かなり慎重になっていたのに。
「まぁさ、ちょい複雑だけど頑張ってほしいのさ、サト兄ちゃん。俺の妹泣かすなよ!!」
そう言って、彼女の朝美を見つけて走り出していった佐藤に呆然とした。