口吸い【短編集】
『____わわ、どしよ!?俺泣かせちゃった!!』
『ごめんごめんごめん、俺が悪かったから!!』
『女の子がそんな猥褻な、あああ…………だめだ、絶対』
『ちょっと待ってぇぇぇ?!なんで、どうして、どうなった?!』
今思えばいっつも彼は振り回されている。
思わずクスリと笑いが零れる。
「ちょっと俺の話聞いてる!?」
「へっ!?」
「あーーー、もうなんできいてないの!!」
意識が戻されれば落胆の声をあげられた。
まだ、顔は赤い。
「えっと、ごめんなに?」
「もう、いい………」
諦めたように呟いて、頭を掻いた。
その声と閉められたのは、カーテン。
彼の伏せた目が鈍く光って、ドキリとする。
そのあと、背中に走る震えに驚いた。
「勝手にする」
密室になれば彼は強気になった。
試着室、後ろに鏡、前にカーテン、逃げ場なんてない。
いつもと違う、かけ離れた雰囲気に息ができなくなる_____。
「俺だってこういうことしたいんだよ」
一瞬のことだった。
引き寄せられたのは、体。
顔が近づけられたのは、谷間。
そこに触れるのは震えた唇。
……………………ではなく、鼻血…………。
「ちょっと胸に鼻血つけないでよ!てか水着つけたら強制買い取りなんだから!」
「ごめ、まじでごめん、でも止まらない………」
「このムッツリスケベ!!」
「やめて、試着室で叫ぶな!丸ぎこえだっつの」
甘ったるい雰囲気をぶち壊し、安堵したのもつかの間少しの残念感が残る。
…………………いつまともにキスもできるようになるのか。
恋のエキスパートの苦悩はまだまだ続く。
《end》