口吸い【短編集】
「俺の、話………聞いてください」
あまりに弱々しく。枯れそうで消えそうなその声に罪悪感を抱く。軽く吐きそうになるくらいの胸焼けがあった。
「………逃げるまで追い込んでしまってごめんなさい」
下げられる頭にどうしたらいいのかわからなかった。目を丸くすれば、そのまま、彼は続ける。
「…………怖がってたのに付きまとって、諦めきれなくて」
違う。
「後悔したんです、先輩の居場所をとってしまったから」
_____違う、のに。
半ば泣いている彼があまりにも馬鹿にしか思えて、なんて優しい人なのだろう。逃げたのは私だ。私が答えも出さずに放棄したのだ。そんな権利も無いくせに。
追い込んだのは私じゃないか。
謝る必要なんて無い。そう思うのに言葉がでない。
「先輩が、元気そうで安心したんです。顔を見たとき、懐かしくて、でも腹立たしくて。」
でも、と続ける。
額を手で押さえつけて、彼は続けた。
「俺が傍にいて支えたかったんです。俺無しで笑顔を振り撒ける先輩が憎くて仕方なかった。…………どうしようもないんです」
だから、さっき冷たくしたんです。と聞こえないくらいの声色で呟いた。