口吸い【短編集】
これは夢なのか。出来すぎた虚像なのか。
泣きじゃくる彼を見ては信じられない気持ちでいっぱいだ。
「まだ、好きです…………先輩」
パリン、と何かが崩れた。剥がれていくのは何だろう。最初に崩されたのは目だった。決壊して、止まらない。
「私も………です。今まで、ごめんね…」
***
お互い泣いて泣いて止まらなかった。
私も自分の心の内をこと細やかに伝えた。
驚いて、呆れていた。そして笑ってくれた。
夜はお互いしゃべりに喋り尽くした。
ノンアルコールのビールを煽って普段話さないこともすべて話しきった。
シングルの布団に身を寄せ合って寝た。
私は眠っている彼の掌に小さくキスをした。
end