口吸い【短編集】


「どうしてそんなに優しいの?」

彩花に会うたび伝えられたことがある。

『お兄ちゃんが大丈夫か、って』

ほんの二回、だ。
元気な頃の私と、変わってしまった私。

声が震える。
何本目かわからない煙草を持ったまま、私をじっと見ている。

「優しくなんかしちゃダメ、です。こんな汚い女を、付け上がるだけなんですよ。誰にでも股を開くような女は今度はあなたをターゲットにしてるかもしれない」

「…………」

「傷つけたかった、ただの自己満足。醜くくて、醜くくて、どうしようもない……。満たされたかった、傷つければ傷は癒えると思った」


思った、のに。

傷つければ、その人が悲しそうに私を見るから私も傷つく。
怒っている人の気持ちを考えると申し訳なくて吐きそうになる。

どうしたら、これは消えるの。

私の傷は縫合されることもなけりゃあ、止血することもできない。

どうやっても苦しい。

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