口吸い【短編集】
あの人、は。
スーツを隙の無さそうに着こなしていて、いつも固めたオールバック。
目は細長くて少々つり上がっている。
蛇の擬人化、がぴったり当てはまるようなイメージである。本人には言えないが。
そんなエリート会社員みたいな人が、何を思って、何のために人形を買っていくのか。
私には全くわからない。ヒントが少なすぎるといってもいい。
……………そんなことをフリーマーケットを終えた一週間くらいは考えている。
***
二週間後のフリーマーケットの、午後三時にあの人は姿を現した。
四度目の来店もいつも通りのスーツだった。
「スミマセン………今回は人形が少なくて」
そう。今回はアクセサリーを中心に作ったから、あの人が来るまでに人形は数が減ってしまっていたのだ。
あの人は、いつも通り人形を吟味しながら「あぁ、別に」と軽く流した。むしろ、
「いつも二週間といってもそんな日数があるわけではないでしょう。これだけと言いますが、これだけを短期間で丁寧に作ってあるのだから
文句より感動を覚えますね」
と温かい声をいただいた。
思ってなかったことなので、目をみはる。
その視線がぶしつけだったのか、いつものポーカーフェイスを崩したムッとした表情になった。