口吸い【短編集】
瞳が揺れた。
もう一度頬に滑らせれば、熱い。
うるうるとしたもう、崩壊五秒前。
震えた体にはもう力が入ってなくて、後ろに倒れそうになったのをもう片方の手で腕を掴む。
「そんな、わけ」
「俺は意識してるが」
目を見開かれた。これ以上ないってくらいに。
髪の毛を一房、掬う。
毛先を口元に持っていき軽く落とす。
「嫌だったら嫌でいい。どっちだ?」
桜舞う中で、紀美花は「………もらってください」って呟いた。
下校中、紀美花に問い詰めたのは態度ががらっと変わった時のこと。
いきなり抱き締める癖はなんでと聞いたら、「お兄ちゃんがサト兄ちゃ…………サト君は積極的な人が好きっていったから、恥ずかしかったけど」
アイツ、後で絞める。
《end》