口吸い【短編集】
ねぇ、楼。
私はね、思う。
楼がどんな身分でも、どんな姿でも、きっとこうなっていたのよ。
彼の胸に額をくっつける。
厚い胸、もう触れる日なんてこないと思うと涙が溢れそうになる。
なんども、世界を生きていても。
そんな気がする。
でも幸せだった。
幸せだったから。
愛しい貴方の瞼にキスを落とす。
起きた彼に何度もありがとう。と言った。
もう迷わない。彼は未だ納得できてない。
泣き腫らした顔で何度も懇願された。
でも必ず横に振った。もう決めたことだから。
だから一言だけ。
「好きよ」
もう会えないけれど。