口吸い【短編集】
16*スパイラル*《誘惑、耳》
「ごめんな」___いつも困ったように言われる。
何度目の失恋だろう。
言えばいうだけ安っぽく聞こえた。
なのに、いつも口にしなければ死んでしまうのではないかという不可解な思いが必ず沸いてでてくる。
今日は帰り道でばったり会って、別れ道を見つけた時、いつものように好きと彼に言ったのだ。
そして自然の摂理で彼もいつものように謝るのだ。
最初こそ泣いていたが、言い続けているうちに挨拶にも似た軽さがその言葉から滲んできた。
ベッドの上で、途方にくれる。
多分かれこれ一番の青春時代、三年間、私に唱えて彼に伝えていた。
そう唱えていた。
私は、自分で薄くなったものを自らの手で塗り直していることにやっと気が付いた。
その事に気付いた今日、頭を鈍器で殴られたような衝撃が襲う。