口吸い【短編集】
その翌日から私は彼を見ることなしに避け続けた。
極自然に、視線を合わせないだけ。
全てがパキリパキリと音を立てて崩れていく。
自分にとってそれは解放なのか、それとも崩壊なのか知るよしもなかった。
ただ、自分は解放されたがっていた。
不毛な想いはいったいなんなのか。
原形がなく、不気味な存在を早く手放したかった。
***
「最近、アイツに会ってないみたいだな」
避けていた人物とよく似た弟は淡々と言った。
よく似ているけれど性格はまるで反対である。
私はこの弟に会うことも恐れていたのに、彼は正門に待ち伏せするように佇んでいた。
なんでここにいるんだろう。
でもこの口振りはきっと私を待っていた。
「………なんで?」
「兄貴、が心配してたから」
そうか、彼は少なからず異変に気が付いているのか。
おかしい。笑いがこみあげてくる。
怪訝に思ったのか、無表情が崩れて眉が上がった。
「何がおかしいんだ?」
「何でもないよ、うん、大丈夫」
「なにもないわけないだろ」