口吸い【短編集】

彼はびっくり、したように顔をこちらに向けた。でもお構いなしに顎を掴んで元の向きにさせる。

耳が赤い。知ってるよ、私は。


「ど、した……お前」

かわいい。動揺しているのがばれないように低く問い掛けるなんて。

「私、かわいそうでしょ?」

まるで酔っている。普段の私なら、絶対にこんなことしない。

「好きで好きでたまらなくて。なのに届かなかった。告白を一度やめたら、恋人のように、優しくしてくれた」

彼は私に依存していた。
だから、飼い殺すように、私を。

「キスも、それ以上も。なんて最低。」


かり、と彼の耳を噛んだ。
彼は何も言わない。でも息は、止まった。


「だからね。」

私も最低だわ。

「塗りつぶしてほしい。消したいこんなの」

___彼が私を好きって知ってて、こんなことするんだから。
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