口吸い【短編集】

いつもにこにこ笑ってて、年寄りキラーなこいつはわざとかってくらい言いたいことを言わせない。しかも遠回しに誘おうとしても斜め上解釈されてしまう。

くそ、だりぃ。

思わず舌打ちしそうになる。
このピュアオーラは時折邪魔だ。


ストレートに誘うのは少し気恥ずかしい。


本当にどうしたものか。
最近の女子高生はませてるはずなのに、こんな天然記念物並に鈍いのは如何なものか。


一応クラスであいつら付き合ってんじゃね?って噂にはなっているらしい。だがその様子に気をかける素振りはまるで無し。

クラスメイトはいつもはおどおどと話し掛けることすらままならないのに、見かねた女子が「頑張れ!」と静かに応援してくることも知っている。

なんで、ほんと、こんな面倒な女を。


今でも嬉しそうに卵焼きを頬張っ………る前に落としやがった。


「あ、あぁあ…」

悲痛な声で悲しみに呉れている。
よっぽど食べたかったのか。
コンクリート上に落ちた卵焼きはぐったりと崩れ、倒れている。思わずため息が漏れた。

「しゃあねぇだろ、諦めろ。俺のやるから」

箸でつまんで差し出した。
行動にした後、あ、と気づく。
向こうも気付いたようだ。キョトンとして、不思議そうに俺を見上げてる。


俺 は 何 を 期 待 し て 箸 で だ し た !?

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