口吸い【短編集】


予想通りに、おそるおそる口を近付けて____あろうことか卵焼きを飲み込みやがった。


「!?」

蛇か!?

「ケホッ、コホッ」 彼女は案の定むせていて、首を押さえている。

「大丈夫かよ!?」


「結………構なお味でし……た」


そこで自分誉めんのか!

一通り噎せた後、自らコップにお茶を注いで飲み干した。彼女の顔に多少の疲れが見える。

こんなに無茶する女は本当に色気がない。
染々思う。


「仏様、久々に死というものを生で体感しましたよ」

お弁当箱を片付けながら彼女は言った。
ちゃんと残さずに綺麗に完食している。

相変わらず仏様と呼ぶのはもうスルーすることにする。



「そうだな。いかにも死の直前だったもんな」

「仏様の怒りを買ってしまったのですね」

「食べ物の恨みはどの動物においても共通なんだよ」

正直、獲物は君だ!なんて寒いことでもいいから言ってしまいたい。そろそろ焦れてきた。
この関係は果てがないように思えてしまう。

祭りに誘うだけでも、なんとも情けないがどう言うべきかわからないのである。
距離感を見せない彼女の無意識な手腕よりも、俺のヘタレ度の方が遥かに上だ。


彼女は掌に握り締めた拳をぽん、と叩いた。
心なしか表情が高揚としているように見える。頬は丸く林檎のように赤いが、目はキラキラと輝いている。


「仏様、卵焼きの代わりといってはなんですが」

___たらり、と変な汗が流れる。


「私の奢りで今度のお祭り、食い倒れにいきませんか?」




うんと頷いたが、負けた気になるのは仕方のないことだろう。








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