口吸い【短編集】
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うん、悪くない。
「仏様ーーー林檎飴食べましょうよう」
二歩先の彼女が手にたくさん食料を抱えたまま、次の獲物を指差した。
いつもなら「先に食べてからだろ」と叱責するが、浴衣に免じて今日は許す。
変なプライドで断らなくて良かったと、過去の自分を精一杯褒めた。
「あそこの階段で食べませんか」
林檎飴を買った後、小さい祠に繋がる階段に移動した。彼女はいつ買ったのか、祠の前に饅頭を供えてから隣に座った。
空はもうすでに藍色に落ちていて、虫が悲しげに鳴いている。
「今日は花火しないそうですよ」
「らしいな」 花火が無いのは少し寂しいものである。
焼きそばやら、買ったものを平らげ心地好い満腹に襲われていると。
弾んでいた会話も、いつの間にか止んでいた。
辺りは沈黙を守っている。