口吸い【短編集】
その時、何か話題を、と思って目に全部の神経を注いでいたとき、彼女の足を見た。
小さい足で、親指と人差し指の間が少し赤くなっているのと、ペディキュアの赤が剥がれかけていたのを見つける。
なんの断りもなしに、鼻緒に触れた。
「いっ………」
顔が一気に気難し気に歪んだ。
無理して穿いていたのだろう。
彼女も同じように足を眺めてため息をついていた。
「せっかくお洒落してきたのに」
「そんなことより、」
言って気付いた。失言だ。
このままいい終えてしまったら完全に終わる。彼女は別のベクトルにまた歪んだ顔を見せた。先程よりは痛ましかった。
「………あたしがお洒落しても意味ないってことですか」
やってしまった____言葉が紡げないのを肯定と取ったのか、さらに言葉を続けた。
「仏様はそうですよね。いつも仕方なく私をヒーローみたいに見守ってくださってて。」
「………おい」
「この浴衣だって悪足掻きですよ。薄い望みでもって、これで最後だからって、この浴衣は仏様の前しか見せてなかったのに」
両手を広げ、浴衣の生地がはっきりわかった。大輪の蓮だ。
泣きながら、絞り出すように彼女は結論を落とした。
「私、仏様のこと好きですよ。」