口吸い【短編集】
俺を見てから目を伏せた。
ぽたり、ぽたりと落ちていくのは涙。
「あんなかっこよく登場するなんて誰が好きにならないっていえるんですか」
やけくそに言い放って、目を懸命に擦り出した。俺はただ呆然としていた。泣きながら、怒りながら、悲しみながら、告白をした。この感情が全て俺だけに向けられているんだとしたら本気なのだ。ごくり、と唾を飲み込む。
「本当に、好きなのか」
俺のことと聞かなかったのはただのヘタレだからだ。情けないかもしれないが。
彼女はぎょっと目を丸くしたあと眉毛を吊り上げた。
「好きだから苦手だった料理も頑張ってたんです!嘘で好きなんて言いません、私は尻軽じゃないです、疑ってるんですか!?」
「違うって」
はーーーーー。俺は卑怯だ。
気持ちを確認してからじゃなきゃ告白できないなんて。
「なぁ」
「なんですかっ」
「ヒーローは案外チキンで、しかもメンタル的に結構弱くて雑な言葉遣いで周りから引かれてるけどいいのか?」
彼女がぴたり、と泣くのを止めた。
涙やら鼻水の残骸は顔に残っているがそのまま俺を見つめた。