口吸い【短編集】
状況をわかってないな。凄く悩んでる。
やっぱり言わなきゃならねぇか。
やけくそだ、しるか。
「俺もお前がいいっつってんだよ」
なんだ、その衝撃を受けた顔は。
真っ赤になるのがわかる。
「わかれよ、ばかっ!」
「意味わかんない!仏様、顔赤いですよ!」
「お前もな!」
言い合ったら、沈黙後、どことなく笑いが漏れた。心の底から柔らかい気持ちが沸き上がった。
***
「ねーねー鼻緒切れちゃったから、今度買いに行かない?」
二年後、記念日の日、やはりあの祭りがあった。あの時の下駄の鼻緒は切れてしまった。思い出の品だからと直そうとしたが再起不能らしく、こないだ残念がっていた。
「あぁ。あ、」
「ね、何?」
「爪」
あの時は爪にマニキュアが彩られていた。
今は透明なものをつかっているらしい。
彼女はくすり、と笑うとマニキュアを手渡した。
いつも彼女に振り回されておもしろくない。
マニキュアを塗るふりして、指に噛みついてやったら、どういう反応をするのだろう。
楽しい想像が込み上げてきたところで、マニキュア瓶を開けた。
end