口吸い【短編集】
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もっと、その喉仏が動くところをみていたい。
もっと、そこから声を発してほしい。


触ってみたい?ううん、噛んでみたい。
歯形をちょっとつけて、私のだけって。



おかしいでしょう、彼女でもないのに。



独占欲、首筋なんてみんな一緒だし。
喉って圧迫すると死んじゃう。
愛憎って反対言葉の組合せ。
それとおんなじ、この人を殺したいほど好きって。

私いつも重いって言われてた。


殺したいほど好きってどこかネジブッ飛んでるって。

私も、そんなこと言われなくても知ってるの。


だから、喉にキスすることが私の一番の愛情表現……………。



いつのまにかスルスルと抜け出したのはあまりに単純な《好き》っていう感情だった。
だけれども、異質。


言うつもりなんてなかったのに、先輩があまりにも知っていたから完全降伏してしまった。


先輩は支離破滅のそんな戯れ事を黙って聞いてくれた。




いい終えた後、涙が堤防を決壊して大洪水を起こしていた。

そんなときにはあのギラギラはなく、いつもの優しい先輩に戻っていた。


背中をさすって、ハンカチで涙を拭いてくれる。

先輩は馬乗りをやめて、初めの何もなかった時のように隣に距離を詰めて座った。



「先輩、ごめんなさい」


「何を謝っているの、謝ることはない。煽ったのは俺だよ」


少し怒った表情で、乱暴に涙を拭き取っていく。

「第一、俺はそんな性癖、知ってたから」



しれっ、と言われびっくりして目が勝手にこじ開いた。不機嫌な顔でわけを話した。












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