口吸い【短編集】
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なんて間の悪い。プールに向かう途中、プール内に広がる咳き込む音に辟易した。なんで、あの子がいるの。
そして、こないだのポジションを交代したように彼と彼女の対面はこないだの私達とダブった。ただ、目が、私と違うだけ。
「広江さん、私の華麗なるバタ足見ました?素晴らしくなっていたでしょう!ヒヨコから合鴨ですよお!」
周りはとても温かくうるさい彼女を見守っている。これが若さなのか。
広江さんは____彼はバカにしたように口端をくいっとあげた。
「合鴨はあんな苦しそうに泳がないって」
「いや、違いますよーーー合鴨も私らから見れば涼しい顔してるけれど、あれがしんどい顔なんですよ。常にあの顔なんでわからないだけですって」
「いいから泳ぎまくれ」
「はーーーい」
彼女が背を向け、プールに沈みこんでいく姿を彼は、見つめていた。私も、そんな彼を見つめている。磁石の対極同士がつながった、そんな感じで。