あの頃より きっと。
「ひ…平山先輩…?!」
そこにいたのは、なんと雷だった。
しかし、それを雷と信じるのに時間がかかった。
なぜなら雷は、いつもの、爽やかな優しさのかけらもないような表情をしていたからだ。
「大丈夫か」
そう言って、雷は自分の来ていたパーカーを脱ぐ。
そして彩穂を覆い隠す様に包むと、ギュッと抱きしめて男を睨んだ。
「んだよ、お前」
雷に近寄る男が、首の骨を鳴らしながらそう言った。
彩穂には、周りが見えなくて全く状況が分からなかった。
しかし、雷の腕の中にいることは分かった。
雷の温もりが、冷えきった体と心を温めていった。
しかしその温かさは、すぐに去っていった。