あの頃より きっと。

そのとき、雷が男の手を振り払った。

そして、鋭い目つきで男を見た。





「うぜぇんだよ」





信じられなかった。

低い雷の声が、男に暴言を吐いた。

その瞬間。



――ドッ。



大きな音がして、彩穂は思わず目を逸らした。

一拍たってから、彩穂が雷に目を向けると、そこには男を殴る雷の姿があった。

彩穂は、信じることができなかった。

どうして雷が。

雷は、人を殴るような人だと思わなかった。

もっと繊細な人だと思っていた。

いろいろな疑問が募っていく彩穂は、何もかも忘れて、ただ男を殴りつける雷を見ていることしかできなかった。
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