あの頃より きっと。
大切なことを口にしたという感覚は薄かった。
しかしそれは言った直後のみの感覚であって、何度か瞬きをすると、唐突に胸の奥が大きく音を立て始めた。
「……全然気付かなかった…」
風磨が、沈黙を破る。
彩穂はただ手のひらを握る力を強くして、今にも溢れ出しそうな感情を押さえた。
「…やっぱり鈍感……っ…」
そう言って彩穂は顔を上げたが、風磨の顔を見た瞬間に視線を落としてしまった。
目を見たら、絶対泣いてしまう。
もういい、これで全て伝えた。
これ以上、何も望むことはないんだから。
彩穂はすぐに風磨に背中を向け、そのまま手を振った。
「風磨、バイバイ」