金色の陽と透き通った青空
第2話 愚かな夫・失って初めて気付くこと
――海藤リゾート
自然環境を保全、保護しながらホテル事業や別荘開発などのリゾート事業を幅広く運営、急成長を遂げた、リゾート事業の大手企業。
そこの娘が杏樹だった……。
そこの会長である、海藤隆也(かいとう たかや)から娘、杏樹との縁談を持ちかけられ、大手総合商社の総帥、玖鳳翔馬(くほう しょうま)の命で、孫であり玖鳳グループの社長でもある、玖鳳智弘(くほう ともひろ)は杏樹と結婚した。
智弘26歳、杏樹21歳だった……。
――愛のない結婚だった……。
生まれながらにして玖鳳グループを背負っていかなくてはならない運命……。
父親を早くに亡くし、玖鳳家の血筋を受け継ぐ者は、智弘ただ1人。
幼い頃より帝王学を学び、厳しく育てられて、結婚も勿論総帥の決めた相手と結婚するのが当り前なのだと思った。
愛などと言う物は知らなかった。大企業を率いる者にとって、そんなものは必要なかった。
妻は添え物。それなりのレベルの家出身で、学歴は高すぎても好ましくない。下手をしたら自分に刃向かったり、事業に口を挟んだり、会社にとってマイナスになる事態になる時もある。それなりの学歴で、それなりの教養があり、大人しく従順で、自分の子孫を残す役割を果たせばいい事だ。 自分の母親の様に。
母の事は微かに覚えているだけだ。父が事故で亡くなってから、総帥の命で玖鳳家を追い出された。
元々玖鳳家にはうんざりしていたようだった。文句も言わず、すぐに出ていった。俺が3歳の頃だった……。
その後、風の便りで再婚して幸せに暮らしていると聞いた事があった。相手の男性は、あまり特徴もない、大して財産もない一般の男性だったようだ。
今は行方も分らず、捜そうとも思わないし、何の感情も持ってない。
杏樹は総帥が見込んだだけあって、大人しい従順な女性だった。何の特徴もないつまらない女……。
ただ、子孫を残す為に時々屋敷に戻って来て、一緒に一晩明かす。
あとは、自分の隠れ家的なマンションに戻って、気ままな一人暮らしを楽しんでいた。
――隠居して、別宅に住んでいる総帥はこの事は知らない。
敷かれたレールの上を淡々と進んでいかなくてはいけない自分の運命にある日虚しさを感じ、密かに隠れ家を手に入れ普段はそこで暮らしていた。
俺は思っていた。総帥が玖鳳グループから完全退陣したら、俺のやりたいようにさせてもらうと……。
――その日を……その日だけを心の支えに生きて来た。
ある日、とんでもない事件が巻き起こった。
杏樹の父親が反乱を起した。ただのリゾート開発企業の子トラの分際で、うちの社にM&A(企業買収)を仕掛けてきた。事前にこの兆候は、わが社の株の動きで察知していた。
予め用意していた、海藤グループのリゾート開発誘致不正買収の情報を入手、その情報をマスコミに流し、それが火だねとなって、海藤隆也と杏樹の兄であり社長である海藤雅也(かいとう まさや)は逮捕、失脚……。
――弱小化した海藤グループを手中に収める事に成功した。
今回の件で怒り狂った総帥は、杏樹を屋敷から追い出し、小さなマンションに住まわせた。そして総帥の支持で秘書が離婚届を用意し、そのマンションを訪ね、杏樹に署名捺印させた。
――これでジ・エンド……。
だが……。おれは、その離婚届を秘書から奪い取り、シュレッダーにかけ処分した。
結婚も離婚も総帥の一存で決められる事に、うんざりしていた。その反抗心から、離婚届を廃棄した。
そしてこっそりと杏樹の住まわされているマンションを訪ねた。
インターホンを何度も押したが反応はなく、何気なくドアノブに手をかけたら、鍵はかかってなく楽々部屋に入る事が出来た。
小さな1LDKの何もない質素な部屋だった。そして杏樹はいなかった……。
寝室に入ってベッドを見て驚愕した。
慌ててシーツを引きはがして処分した感じで、ベッドマットレスにはカバーもなく、剥き出しの状態だった。
そこに、かなり出血したのか、マットレスに血が染みて茶色く変色していた。
ごみ箱をあさったら、口をきつく締めたビニール袋から、真っ赤に染まったシーツや血で染まったパジャマやナイフも出てきた。
――死のうとしたのか?
これを見て初めて心が痛くなり、苦しく思った。そして、その時初めて、自分には心がある事を感じた。
杏樹はどこにいるのか? 大丈夫なのか? あらゆる機関を使って、杏樹の行方を調べた。
数日して、手首を深く切ったが命に別状はなく、数針縫う治療を受けている事が分った。
その病院で、心療内科を受診するように勧められたが、行かなかったらしい。
――その後の行方は全くつかめなかった。
(第3話に続く)
自然環境を保全、保護しながらホテル事業や別荘開発などのリゾート事業を幅広く運営、急成長を遂げた、リゾート事業の大手企業。
そこの娘が杏樹だった……。
そこの会長である、海藤隆也(かいとう たかや)から娘、杏樹との縁談を持ちかけられ、大手総合商社の総帥、玖鳳翔馬(くほう しょうま)の命で、孫であり玖鳳グループの社長でもある、玖鳳智弘(くほう ともひろ)は杏樹と結婚した。
智弘26歳、杏樹21歳だった……。
――愛のない結婚だった……。
生まれながらにして玖鳳グループを背負っていかなくてはならない運命……。
父親を早くに亡くし、玖鳳家の血筋を受け継ぐ者は、智弘ただ1人。
幼い頃より帝王学を学び、厳しく育てられて、結婚も勿論総帥の決めた相手と結婚するのが当り前なのだと思った。
愛などと言う物は知らなかった。大企業を率いる者にとって、そんなものは必要なかった。
妻は添え物。それなりのレベルの家出身で、学歴は高すぎても好ましくない。下手をしたら自分に刃向かったり、事業に口を挟んだり、会社にとってマイナスになる事態になる時もある。それなりの学歴で、それなりの教養があり、大人しく従順で、自分の子孫を残す役割を果たせばいい事だ。 自分の母親の様に。
母の事は微かに覚えているだけだ。父が事故で亡くなってから、総帥の命で玖鳳家を追い出された。
元々玖鳳家にはうんざりしていたようだった。文句も言わず、すぐに出ていった。俺が3歳の頃だった……。
その後、風の便りで再婚して幸せに暮らしていると聞いた事があった。相手の男性は、あまり特徴もない、大して財産もない一般の男性だったようだ。
今は行方も分らず、捜そうとも思わないし、何の感情も持ってない。
杏樹は総帥が見込んだだけあって、大人しい従順な女性だった。何の特徴もないつまらない女……。
ただ、子孫を残す為に時々屋敷に戻って来て、一緒に一晩明かす。
あとは、自分の隠れ家的なマンションに戻って、気ままな一人暮らしを楽しんでいた。
――隠居して、別宅に住んでいる総帥はこの事は知らない。
敷かれたレールの上を淡々と進んでいかなくてはいけない自分の運命にある日虚しさを感じ、密かに隠れ家を手に入れ普段はそこで暮らしていた。
俺は思っていた。総帥が玖鳳グループから完全退陣したら、俺のやりたいようにさせてもらうと……。
――その日を……その日だけを心の支えに生きて来た。
ある日、とんでもない事件が巻き起こった。
杏樹の父親が反乱を起した。ただのリゾート開発企業の子トラの分際で、うちの社にM&A(企業買収)を仕掛けてきた。事前にこの兆候は、わが社の株の動きで察知していた。
予め用意していた、海藤グループのリゾート開発誘致不正買収の情報を入手、その情報をマスコミに流し、それが火だねとなって、海藤隆也と杏樹の兄であり社長である海藤雅也(かいとう まさや)は逮捕、失脚……。
――弱小化した海藤グループを手中に収める事に成功した。
今回の件で怒り狂った総帥は、杏樹を屋敷から追い出し、小さなマンションに住まわせた。そして総帥の支持で秘書が離婚届を用意し、そのマンションを訪ね、杏樹に署名捺印させた。
――これでジ・エンド……。
だが……。おれは、その離婚届を秘書から奪い取り、シュレッダーにかけ処分した。
結婚も離婚も総帥の一存で決められる事に、うんざりしていた。その反抗心から、離婚届を廃棄した。
そしてこっそりと杏樹の住まわされているマンションを訪ねた。
インターホンを何度も押したが反応はなく、何気なくドアノブに手をかけたら、鍵はかかってなく楽々部屋に入る事が出来た。
小さな1LDKの何もない質素な部屋だった。そして杏樹はいなかった……。
寝室に入ってベッドを見て驚愕した。
慌ててシーツを引きはがして処分した感じで、ベッドマットレスにはカバーもなく、剥き出しの状態だった。
そこに、かなり出血したのか、マットレスに血が染みて茶色く変色していた。
ごみ箱をあさったら、口をきつく締めたビニール袋から、真っ赤に染まったシーツや血で染まったパジャマやナイフも出てきた。
――死のうとしたのか?
これを見て初めて心が痛くなり、苦しく思った。そして、その時初めて、自分には心がある事を感じた。
杏樹はどこにいるのか? 大丈夫なのか? あらゆる機関を使って、杏樹の行方を調べた。
数日して、手首を深く切ったが命に別状はなく、数針縫う治療を受けている事が分った。
その病院で、心療内科を受診するように勧められたが、行かなかったらしい。
――その後の行方は全くつかめなかった。
(第3話に続く)