言いなり
言いなり彼女

彼女はいつでも俺の言いなりだ。
だって俺のことが好きで好きで仕方がないんだから。
だから、俺が言うことを彼女は喜んでする。



「お帰りなさい。今日は尚(ナオ)くんが言った通り、海老フライとコロッケだよ。今から揚げるからちょっと待っててね。」


俺が会社から帰るなり満面の笑みで出迎える彼女。
ほらな?
完全に俺に惚れてるだろ?

俺の手から鞄を受け取り、上着を脱ぐとそれも受け取る。
俺の胸辺りくらいしかない身長で、ふわふわした髪をお団子にまとめている。
彼女は料理をするときはいつもこの髪型にする。
彼女の後ろを歩いてリビングに向かいながら、お団子に触る。

彼女は全く気付く気配はなが、いつものことなので気にしない。

彼女は毎日
“私にしては上出来”
なんて言いながら美味しそうに自分で作ったご飯を食べる。

「私にしては上出来。」

ほらな?
また言ってる。

「毎回毎回上出来なら、もうそれが普通だろ。本当の上出来作れよ。」

「む~!!だから、“私にしては”って言ってるのに…。尚くんは美味しくない?」

ほっぺたを膨らませる姿見たさについつい意地悪を言いたくなってしまう。

「ん…。まぁ、不味くはないし、普通だからこのままでいい。」

「…え。」

とたんにしょんぼりする彼女。
これこれ、この顔。

たまらなく可愛い。
このままベッドに連れ込みたいくらいに可愛い。
飽きるほど撫でて甘やかしてやりたくなる。

「なんだ?どうかしたのか?」

しょんぼり彼女にあくまで知らん顔。

「…ううん!!何でもない。私、頑張るよ!!」

“頑張るよ”って言ってる時点で何でもなくないだろ。
なんて思いながらも内心ニヤニヤ。



***

俺たちの始まりは、彼女からの一言。

「永山(ナガヤマ)さん知ってるかもしれませんけど、私、永山さんが好きです。今すぐに、付き合って欲しいなんて言いませんから、今日からは私を女として見てもらえませんか?」

勿論、彼女が俺に好意があるのは前々から気付いてはいた。

会社のデスクは隣同士。
気付かない方がどうかしている。

そして、この言葉をどれ程心待ちにしていたか…

きっと彼女は知らないだろう。


“秋本(アキモト)さんの気持ちは分かったよ。”

俺が微笑むと彼女の瞳は途端に輝きを増した。

“私、頑張ります!!”

嬉しそうにそう言った彼女は、今でも飽きることなく俺を振り向かせようと頑張っている。



彼女は何も気付いていない。

会社のエントランスや食堂で彼女を先に見つけるのは俺の方だということに。

ワンテンポ遅れて俺に気付いて目が合うと、花が咲いたみたいにふわりと微笑む彼女に近づいて抱き締めたくなることに。





「……尚くん?ぼーっとしてどうしたの?疲れてるならゆっくりお湯に浸かって寝た方がいいよ?」

あぁ、今は食事中だった。
彼女と二人になるとついつい気が抜けてしまう。

彼女が俺に完全に惹かれているのは分かっているし、安心はしているが
それとこれとは訳が違う。


つまり、彼女は気がなくても、彼女に熱い視線を向ける男は俺だけじゃないということ。

「千香(チカ)は呑気でいいな。羨ましいよ。」

「そうやってすぐに誤魔化す…。私、呑気じゃないもん。ほら、お湯入ってるから、お風呂先に入っていいよ。」

彼女は俺の腕を引っ張り風呂場まで連れてきた。
そのままリビングに戻ろうとする彼女の腕を今度は俺が掴む。


「…今日はダメ。ちゃんとゆっくりして。最近忙しいの隣で見てて分かるから…」

「余計なお世話。それ以上無駄なこと言うとここでするぞ。」

「…うっ。そんなのヒドイよ。…ひゃっ!?」

彼女を抱き上げて自分と壁の間に降ろした。
そのまま屈んで頭ひとつ半は低い彼女の唇を自分の唇で塞いで、俺が脱がせやすいようにと選んだのであろう触り心地の良い部屋着をゆっくりと脱がせていく。

彼女は決して俺を拒まない。

既に力の抜けた体を壁に預けて俺の腰に手を置いている。

「私は、ちゃんと止めたからね…?明日キツくても知らないよ。」

熱い息を吐きながら甘い声で囁く彼女。

既についている幾つかのキスマークに唇を寄せる俺。
風呂なんか飛ばして先に彼女と繋がりたい。

俺のモノだと主張したい。
俺のモノだと彼女の全てに刻み付けていたい。

「…んっ…尚弘(ナオヒロ)…」

さっき丁寧に彼女の服を脱がしたのと同じ手とは思えないほど荒々しく自分のYシャツを脱いでベルトに手をかける。


「千香……」


うわごとのように呟きながら柔らかい肌を撫でた。






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