言いなり
結局言いなり彼女
彼女が珍しく落ち込んでいる。
勿論、彼女が落ち込んでいる理由は俺にある。
ソファーに座り、テレビを見る俺を気にするように、食卓椅子に座ってちらちらこちらを伺っている彼女。
それがまぁ、堪らなく可愛いなんて反則だ。
俺は全く気付いてないふりをしてテレビに耳を傾ける。
「尚くん……。」
彼女が今にも泣き出しそうな声で俺の名前を呼んだ。
「…何?」
あえて冷たく言い放つ。
椅子を引く音が聴こえると、パタパタと足音が近付き、ソファーの隣が沈んだ。
「尚くん、ごめんね。怒ってる?」
勿論、怒ってなんかない。ただ彼女に意地悪をしたくなっているだけだ。
俺の事で一喜一憂する彼女を見てるとゾクゾクする。
「あぁ。お前の阿保さにはうんざりだ。分かってるなら早く帰れよ。」
ことの発端は5分ほど前。
彼女と夕食を食べていた時だ。
今日はいつものように彼女と一緒に俺の部屋に帰ったのだが、彼女の様子がおかしいのは何となく気付いていた。
そして、彼女が言いにくそうに口を開いたのだ。
「尚くん……私、鍵無くしちゃったの…。」
「鍵って?俺の部屋の鍵?」
彼女はコクンと頷いた。
「ふーん。そう。」
「…ごめんなさい。」
正直、鍵無くしたくらいどうでも良いことだった。
鍵ならまた作ればいいし。
俺はというと
こいつキーケースごと無くしたのか…
大変だなぁ。
まあ、俺の部屋にほとんど必要なものは置いてあるし、半同棲状態だから数日部屋に帰れなくても大丈夫か。
なんてことに思考を巡らせていた。
“新しい鍵用意しとくな。”
そう言おうとして彼女を覗き込むと、彼女は零れそうなほどの涙を目に溜めていた。
「尚くんが私にくれた初めてのものだったのに、なくすなんて最低だよね…」
彼女は黙っていた俺が怒っていると勘違いしたらしい。
そして、“彼女の涙を見ると無性にいじめたくなる”という俺の悪いクセがでてしまった。
「はぁー。本当に悪いと思ってんの?だったら、無くさないよな?」
「ごめんなさい…」
「千香は注意力無さすぎ。良く物無くすけど、鍵無くすとかありえない。」
そして、俺は立ち上がりソファーへ移動した。
無言のまま5分程経過して今にいたる。
「分かった…ごめんね…」
彼女は静かにそう告げると立ち上がった。
おいおい、嘘だろ
鍵ないのに、どこいくつもりだよ
慌てて彼女の腕を掴む。
「冗談だから」
「え…?」
「いつもみたいに、いじめたくなっただけっていうか…」
「じゃあ、怒ってない?」
俺が頷くと、彼女の顔がとたんにフニャっとゆるんで、泣き笑いみたいな表情になった。
「尚くん……良かった…。
大事な鍵無くしちゃったから、今度こそ本当に怒っちゃったんだって思って…私…っ。本当にごめんなさい……。」
「俺も悪かった。ごめんな。」
彼女を抱きしめて、頭を撫でる。
「明日合鍵作っとくから、自分の部屋の鍵も、管理会社にいって作ってもらえよ?」
「うん。」
「じゃあ、今からお仕置きな?」
「……へ?」
「鍵無くしたお仕置き。分かってるよな?」
「……うぅ…。」
彼女はいつでも俺の言いなり。
勿論彼女はそれを望んでいる。
理由は簡単だ。彼女は俺に惚れてるから。
そして、彼女以上に俺の方が彼女に溺れている。
どうしようもないくらいに。
***
オレンジライトにされた薄暗い部屋。
ベッドの軋む音と、彼女の苦しそうな涙声。
「あ…もう………お願いっ」
「何を?ちゃんと言わなきゃ分かんない。」
「尚くん……意地悪しないで……」
彼女の柔らかい胸に顔を埋めて
彼女の柔らかいナカに入れていた指をゆっくりと動かす。
「じゃあ、今何本指入ってるか当てたら千香が欲しいモノをあげる。」
途端に彼女の表情が、快楽に耐える泣き顔から子供のような泣き顔に変わった。
「そんなの…わかんな……い…っ」
散々言っているが、俺は彼女の泣き顔がたまらなく好きだったりする。
彼女の瞳から、ぽろりと涙が零れたりなんかしたときには、自分を抑えるなんて不可能だ。
「分からないのか…残念。じゃあ、今夜はこれでお終い。」
「……え?」
「お仕置きだって言っただろ」
彼女のカラダから、自分の指を抜いて舐める。
勿論俺の準備は万端だし、今すぐにでも彼女を俺でいっぱいにしたい。
だが、それよりももっと……
彼女の困った泣き顔が見たいがために意地悪する。
彼女は余程カラダが辛いのか、いやいやと首を横に振る。
そして、舐めていた俺の指を小さな手で握り
さっきまで撫でていた場所へと再びもっていく。
「答えるから……途中でやめないで…」
やっべ………そんな瞳で見んなよ…
彼女のもちもちした太腿を押し上げて自分の昂りを彼女の蜜口に添わせる。
「…え……あっ!………んんっ」
ゆっくりと彼女とカラダを重ねて彼女の隙間を埋めた。
そのまま唇を貪るように重ねて彼女のナカが俺の形に合うのを待つ。
何度目か分からないほど彼女が登りつめた後、俺も彼女と一緒に登りつめる。
ずっとこうしたいたい。
「……尚くん…。ぎゅってして……。」
彼女が力なく俺の腕に抱きつく。
可愛いおねだりが本当に上手だ。
というより、彼女に何かを望まれるとなんでも可愛いと思ってしまう俺がおかしいのかもしれないが。
それでも、何でも言いなりな彼女にこれからも俺は際限なく意地悪をしてしまうのだろう。