空色の瞳にキスを。
涙を溢すのは弱いことだと知っていても、ルグィンの前だと気を張れなくなる。

どこか安心してしまう。

気持ちを見透かしたように気付いてくれて、こうして追って来てくれたら。

今の自分は酷く心を開くから。

歯止めがきかない。


─心を取り戻したあたしは、こんなにも脆いんだ。



すぐ泣いて。

すぐ信じて。

すぐ動揺して。



でも、心をもう捨てられない。

人の温かみが感じられるこの場所から逃げることができない。


─人の温かさに、囚われた。


『人を疑え。』


暗殺されかけて城を追われてから持っていたそんな決意は、アズキとトーヤが砕いた。


人の温かさが、その闇が戻ってくることを辛うじて阻止している。


腰に回った、大きくて華奢なルグィンの右手が、アズキに出会う前の自分に戻らないように引き留めている。


昔のように自分が戻らないと感じていても、経験と共に理性はまだ警戒している。


─やっぱり理性は警鐘を鳴らす。


『信じるな』と。



─同じように出会った、過去も知らない異形の彼を、それでもすがりたい、信じたいと思う。



自分の中の矛盾が苦しくて。

疑うことが、信じることがどうしても辛くて。


涙がまた溢れた。



黒髪の少年はその場に言葉を落とさずに腕の中の彼女を見つめて。

彼女の涙で濡れた左手を少しずらして、悲しそうな金色の瞳で、彼女の額に口づけを落とした。

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