空色の瞳にキスを。
赤い絨毯の上に、ふたり。

どれくらいの間そうしていただろう。


湿った服の裾。

腫れた瞼。


泣き疲れた彼女が彼に体を預けてきた。

ふぅ、と息をついて、しゃっくりあげながら、言葉を落とす。



「ごめんね、ルグィン…。
追って来てくれて、ありがとう…。」

うつむくナナセを、両手で抱き締める。



そんな場所に、もう一人の足音がした。


「…!」

ナナセが体を強張らせるが、ルグィンが彼女の頭に右手をのせて呟く。

「…スズランだ。」

曲がり角から、金色の耳が出てくる。

金色の髪が揺れて、必死な表情でふたりを見つめる。

スズランの唇が、ふたりの名を紡ぎだす。

「…ルグィン、ユリナ。」

ばれたとしても、本来の名よりリスクが低いと判断したのだろう、彼女の名はまだ偽名のまま。

「スズラン…。」

感謝も、何もかも伝えたいのに、彼女の名しか口から出てこない。

「部屋へ、帰ろう。」

三人の内で最も感情を表に出さないスズランが、少し瞳を揺らしている。

悲しそうな表情で、手を差しのべる。


スズランの手に自分の手を重ねてナナセが立ち上がる。


彼女が銀髪を揺らして、振り返る。

「ありがとう、ルグィン。」

ふわりと涙で赤い目の彼女が笑う。


銀の少女が黒猫に手を差し出す。

その小さな白い手に少し大きな骨張った手が乗る。


正午前の冬のあたたかな日差しが、いつもよりも寒く感じた。

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