空色の瞳にキスを。
赤い絨毯の続く廊下を三人で並んで歩く。

「ねぇ、いつ、この屋敷を出ていくの?」

そう尋ねるスズランを真っ直ぐに見上げてナナセは答える。


小さな声が、柔らかいのにどこか凛とした彼女の声が、人気のない静かな廊下に響き渡る。


「…明日の、朝。
急で、ごめんなさい。

でも、これ以上長く居たら敵が増えるだけだと思うから。」

いつの間に決意をしていたのか、真っ直ぐな迷いのない視線と共に答えがすぐに返ってきた。

それでも申し訳なさそうに視線を逸らした彼女に、悲しくも切なくも見える作り笑顔でスズランが笑う。


「いいのよ、別に。
気にしないで。
…ルグィンも、出ていくのよね。」

暗い雰囲気を崩そうとするように、金髪を揺らしながらスズランは隣の少年を見てニヤリと笑った。

ルグィンは驚いて彼女に尋ねる。

「何で知っている?」

その疑問に何でもないことのようにさらりと笑顔で答える、ライオンの少女。

「見ていたもの。
あの庭での約束。」


その言葉に動揺を隠せず揺れる金色のルグィンの瞳。

「え、あの約束…?」


何のことか気付いたナナセも少し焦ったようで。


ナナセの頬も少しだけ朱が乗っている。

その隣を歩いている黒猫は、こちらに不満のオーラを送っている。


唇を引き結んで、なにも言わずにスズランを睨んでくる金の瞳。

そんな気持ちをすぐに表す瞳を見てスズランは思う。

─根は、こんなに素直だ。


弟のように可愛がってきた彼の顔を見て思う。


こちらを睨む少年のその顔が、生きた表情をしていて、嬉しくなる。

ずっと近くにいたから、こんな顔はこの王女が来てからの変化だと知っている。


スズランは未来を憂いながら小さく微笑んだ。


─彼の気持ちが、報われるといいのに。



そう思いながら、後をつけてくる二人分の足跡に耳をすませていた。

< 107 / 331 >

この作品をシェア

pagetop