空色の瞳にキスを。
スズランも予測していなかった答えのようだ。

「だって、きっとサシガネさん達があたしを捕らえに来るでしょう?

迷惑なんか、二人にこれ以上かけられないもの。」


透き通ったナナセの声がこの部屋にゆっくりと広がっていく。


「ナナセ…。」

了承とも、拒否ともとれない呟きが、スズランの口から零れ落ちた。

彼女の名を呟きながら、獅子の少女は、銀色の王女を見る。

伏せられて僅かに窺い知れるだけのスカイブルーの淡い瞳のその奥には、決意の滲む色がある。

その色が、ぐらりと揺れる。

「あれ…?」

「おい…、…ナナセ?」

向かいの心配そうなルグィンの顔もグニャリと歪む。

酷い睡魔が襲い、目を開けていられなくなる。


「…何、これ…?」

掠れた声で彼女が溢して、ずるずると椅子から滑り落ちる。

必死の抵抗も虚しく、空色の光が閉ざされていく。



突然の自身の変化。


回らない頭で彼女考える。


─毒を、盛られた?


スズランはここまでの光景を静観していた。

まるで、こうなることを知っていたかのように。

机に肘をついて両手を口元で組み、ナナセの異変にも微動だにしない。

心配するルグィンに対して、何も言わないスズランに睡魔に負けて回らない頭で気付いたナナセ。

「スズ…。」

ナナセとスズラン、ふたりの視線が絡み合う。

意識に反して閉じていく目に必死に抵抗して、ナナセはぼやけた視界の中のスズランを見る。

「スズラ…ン…。」

最後に彼女が視界に捉えたのは、獅子の少女の冷ややかな瞳。

感情のない、冷たい瞳。



崩れ落ちた華奢な少女を、少年が抱き止める。

彼が何度名を呼んでも、彼女は目を開けない。

頬も心なしか青白くて、ルグィンは不安を掻き立てられる。

もう意識を手放して、褐色の絨毯から離れない白くて華奢なナナセの手にルグィンが自分の手を重ねる。


スズランが気を失った彼女に近づき、瞼を片手で優しく撫でる。


金獅子の少女は瞳を伏せて、思い詰めた表情を浮かべている。


「騙して、ごめんね…。」


意識を失った王女様に、栗色髪の彼女は呟きを落とした。

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