空色の瞳にキスを。
床に崩れ落ちて、意識のないひとつ年下の銀色の少女を抱き締めたままに。

床に座る黒猫はひとつ年上の金獅子の少女を見上げる。


―その瞳に、微かな疑いの色を秘めて。


「何を…こいつの紅茶に何を入れた…!?」

溢れ出しそうな怒りや、戸惑いや混乱した感情を、表に出さないように唇を引き結んで尋ねる。

そんなルグィンの表情は、誰だって彼女を大事にしていることが簡単に見てとれる。

金色の髪をふわりと揺らして、悲しいような表情で何もない床を見ながら、スズランは口を開いた。

ヒヤリとするような、冷たい声で、彼女は溢す。

「ただの…薬よ。」

それぐらいわかっている、と反論したい気持ちを抑えて、ルグィンは次の言葉を紡ぐ。


「ただの…私が作った、睡眠薬。」

カップの底に溶けないでたまった白いそれを指に付けて、闇に生きる異形らしく、冷たく笑った。

笑うスズランのその顔は今までの彼女の人生を表しているようで、背筋が凍るものが隠されている。


しかし、毒薬ではないと知らされてルグィンの瞳に明らかな安堵の色が映った。

そんな彼を見て、さっきとは打って変わって柔らかく、でもとても悲しそうにスズランが笑う。



「私はこの子を狙ったりは、しないよ…。」


憂いを秘めた、スズランの表情。


ナナセを優しく見つめるこの顔に、嘘がないと信じたいと、ルグィンは思った。

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