空色の瞳にキスを。
悪い予感は現実になる。


ベッドに寝ているカイと目があった。
意識はあるみたいで、よかったと安堵で扉の前で突っ立っていると、カイが小さな声をかける。


「ナナセ。こちらへおいで。」

その声はいつもより、嗄れていた。消えそうな父に怖さを覚えて、動揺で声が出なかった。

ナナセは頭が真っ白になるのを抑え、震える足を堪えて、かろうじて父のもとへ足を踏み出した。

カイの瞳は近くに寄るごとに、深い悲しみを増していった。

悪い予感が当たってしまったようで。
聞きたくないから、そばに行くのを心のどこかが拒んでいるようだった。

昨日までの艶のある銀髪とは大違いの、ざらざらの髪は近寄れば酷いものだった。
いつもと変わらない瞳の色のの下には青黒い隈。
見ただけで分かる変わりようは、ナナセには辛かった。

カイの寝ているベッドの前まで辿り着いた。
ナナセは、顔を上げて父と瞳を合わせる。
足がすくんだ。

数秒の静寂が、不気味に二人を包む。


──ここから逃げなさい。

カイの唇が、そう動いた気がした。
理解より先に、唾を飲み込んだ。

「どういう、こと?」

「ナナセ、お前が今度は危ない。ここから逃げなさい。
──殺される前に。」

穏やかなカイが、今は鋭い瞳でナナセを見ている。
昨日の夜みたいな、灰銀だった。

ナナセは魔力で自分の身は守れる。

──あたしは王女だ。

──いまのこの環境と知っている人をみんな置いて自分だけ置いていくのはだめだ。

──そもそも誰に狙われているの。


疑問をカイにぶつけようとした、その時。

「それは無理ですね。
あなたたち如きが逃げられるとお思いですか?

──カイ国王様、ナナセ王女様。」

嘲笑うような、馬鹿にしたような声が背後から聞こえた。

知っていたように、カイは驚きもせずナナセの後ろを刺すように見詰める。
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