空色の瞳にキスを。
ゆっくりとした間の後、ファイの震える声が部屋に響く。



「そんなの、そんな嬉しいこと、ないなぁ…。


もしもそんなことがあったらあたしは、王になりたい…。


とうさんみたいにうまく国を回せるか分からないけれど、とうさんみたいにやりたい…。


もしもそうなって、もしもまだ我が儘言って良いのなら、あたしはみんなとあの場所に行きたいな…。」

有り得ないことを想像して、思いを口にするこの少女は幸せそうで、だけどどこか悲しそうで。


その顔を見ていてアズキはぎりぎりと胸が痛くなった。


「お前さんが王になればいいのに…。」

サラの酷く優しい声が響く。



「無理ですよ、後ろめたいことがある王女様に、誰が付いてきますか?」

現実を見て、どこか悲しそうに微笑む。

その顔に、誰もが次の句が継げなくなる。


「そんなこと、ないのに。」


サラの声がファイの表情を固まらせる。


「え…?」


ファイの淡い青い瞳がこぼれそうなほど見開かれる。

「旅人のような身分では聞けないことかもしれないが、今の王はこう言われているんだよ。」


間を置いて、サラは声を落とした。


「今の王は初代国王の願いに背いた国作りをしている、国を崩す気だ、とね。」

ファイは驚きで声も出ない。

リョウオウの人達はサラの言葉に異論はないようで、黙って瞳を伏せている。


「わしらだってそこまで馬鹿じゃあないのさ。

小さな反感くらい持っているさ。」

─そんなの、全く知らなかった。

ただ従っているとしか思ってなかったファイはその事が少し嬉しくて、少し悲しくて。



「少なからずお前さんの味方はいるんだぞ?」

そう言っていつものように優しく笑うサラ。


「はい…。」

サラの微笑みに、ファイもぎこちないが微笑みを返す。

そんなに穏やかに笑える余裕なんかなくて。


突然伝えられた事実は、ファイで覆い隠したナナセの心をぐらぐらと揺らす。


そのファイの様子を見て、老婆は穏やかに笑う。

「大丈夫、今決めなくても大丈夫だ。

ゆっくり考えなさい。


でも、お前さんは一人じゃないってこと、覚えておきなさい。」


そう言って、本当の孫のように見てくれる老婆の温かな心は、確かにナナセの心に灯をともした。

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