空色の瞳にキスを。
「闇の何でも屋として国でも有名な私達だけど、守備範囲が違って良かったわ。」

大人びた笑顔で年上の男にそう言って笑う獅子の少女。


「そうだな。

ほとんど同じ商売をやっているんだ。

いくら幼い頃から交流があったとはいえ、同じ範囲にいたならば敵になっていただろう。
お前が俺の手の届く場所にいなくて良かったよ。

俺はアスリンを拠点に南部を、お前はルイスを拠点に北部を。」

気の強い令嬢と二重人格の若者は、向かい合い睨みあって会話を続ける。


喧嘩腰の強い口調で言い合うくせに、険悪な空気なんかなくて。


言い合いながら二人の口元に浮かぶ笑みが二人の親密さを表している。


「ある程度の距離があって、敵にならない存在だからよね。

私はこうやって貴方と昔のように会えることが嬉しいわ。」

スズランは少しの嫌味を込めて、にこりと笑う。


その彼女へずいと顔を近づけて、金髪の男は口の端を歪めて妖しく笑う。


「俺も嬉しいよ。」


意地悪に笑んだ彼に彼女の頬が染まりきることなく、スズランの表情がさっ、と切り替わる。



その変わりようは、軍にいた頃の戦闘時の彼女を思い出させる。


どうしてもその彼女には追い付けないことを思い出して、リクは心配になる。

また、あの日々の中に戻ってしまうのではないか、と。


そんな思いからか、彼女を心配した自分の声はひどく震えていた。

「どうした?」

金に近い茶色の瞳を蒼い瞳が覗き込む。


「あ…って、近いわよ!

離れて!」

リクがやたらと近付けていた顔を話すと、落ち着きを取り戻したスズランが口を開いた。


「貴方が気にしていた子達が屋上に降りたわ。

一緒に来る?」

真剣な瞳が、リクを見つめている。


「もちろん。

というかお前の耳は凄いな。」

この技は何度か見ているリクでも見慣れることができない。

褒め称えたリクの言葉に、スズランは冷めたように笑う。


「勿論。化け物ですもの。」

そんな答えを求めていないリクは少しだけ自分よりも下にある金髪の頭を軽く叩く。


「こら、そう言うことは言わない約束。」


「…痛いわね!」

大して痛くはなかったが、スズランは気分に任せて突っかかった。

普段自分よりも年上の大人とやり合って、職業柄大人に見られたくて必死で。

そんな彼女にとっては、リクの子供扱いは少しだけ嬉しくて、悔しかった。
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