空色の瞳にキスを。
にこ、とまたどこか掴めない淡い笑顔で笑う元凶の彼女。

彼女の振る舞いの理由を分かっていてさっきの言葉を口にしたのか、はたまた。

「うん、そっちの方が可愛いよ。」

口説き文句の常套句ような台詞を投下して、ナナセは明るい笑顔を真っ赤になった獅子の少女に向ける。

ナナセの友人を招いたことで、態度が変わっていたことを否定できないスズランはぐ、となにも言えずに拳を握る。


そして、ひとつため息をついて落ち着いたのか、獅子の少女はまた朝食の準備をしていた手を動かし始める。
朝食の準備が終わる頃には清廉された動作を残しつつ、何か強気な動作のいつもの彼女が戻っていた。

片付けが終わり、落ち着いた頃にスズランがぼそりと呟いた。

ナナセだけに言った言葉は、周りがあまりにも静かすぎて皆に聞こえる。

「だって、貴女の友人じゃない?

よく見られたいわよ。」


口を尖らせて拗ねたような口調のスズランに、ナナセは花の咲いたような笑顔を浮かべる。
嬉しさが分かる空色の瞳をした少女の表情に、栗色の髪の彼女も呆れられなかったことにほっとする。


「あたしはいつものお姉さんみたいなスズランを紹介したいよ。

優しくて、格好いいスズランを、私の友達、って言いたいよ?」

そこまではさらりと言って、ナナセは一度、口を閉じる。


「だから…。」

息を継いでまたスズランに言おうとした言葉は、スズランの微笑みで止められる。


「ありがとう、ナナセ。
嬉しい。

ただの私の見栄っ張りだったわ。」

ちょっと照れ臭そうなスズランがナナセには新鮮に思えて、口元が自然と上がる。


「ねぇ、アズキさん、トーヤさん。」


急に話を振られた二人は、目を丸くして固まる。

「私、あまり面倒なの嫌いなのよ。
仲良くなりたいし、ここでの生活、楽しんでもらいたいわ。

私のこと、スズランと呼んで。
貴方達のこと、アズキとトーヤって呼んでも構わない?」

少しだけ遠慮がちに、答えを怖がるような聞き方をしてくる栗色の髪の少女。


その姿に二人の中の彼女のイメージが崩された。


完璧な取っつきにくい若き実業家から、少し強気なお姉さんへ。

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