空色の瞳にキスを。
「きゃ…。」

雑踏の中、人にも押されて黒髪の少年と密着する格好になる。
強い口調とは裏腹な、そっと握られた手に、彼の優しさをファイは感じる。

ただ握られていた手は、そっと握り直されて、指を絡める繋ぎ方へと少年に直される。
素肌と素肌が触れ合って、熱をじんわりと共有する。

一度落ち着いたかに思えたファイの心臓がまた、早鐘を打ち出す。
手を繋いでしまっては、お互いの距離は自然と近くなる。

─これって、他人から見たら…そう見えるよね。

─恋人に見えちゃう、よね。


冬の寒さの中でお互いの手が持った熱い体温は相手へと分けられて。
二つの掌はだんだんと同じ温かさへと変わっていく。


その感触にどきどきして、さっきから何軒も店に入って、荷物が増えても離してくれないその温もりにふわふわする。

隣を見ればいつもと変わらないように見えるルグィンがいて。
自分だけこの状況に動揺しているようで恥ずかしくなる。

火照った頬は冷たい空気に晒されても、一向に冷めてくれない。

頬が赤いことがばれないように、ファイは両手でさりげなく頬を隠して俯く。

─こんなふわふわするの、初めて。

自分の心の動揺の正体を見つけようとして、第一に上がった可能性を否定する。


─大丈夫。この思いは、きっと違う。

恋情とは違うと、ナナセの心は言っている。


─大事の境界線はまだ、越えていない。

─ひとりを大事だとは、思っちゃいけない。

あたしの夢のために。

咄嗟に思ったその言葉は、粗方ナナセの中では間違いではなくて。
強く思った。


─大丈夫。

─ルグィンはまだ、大事な友達の範囲。


無理矢理そう思い込ませて、心を止めたのは、彼とまだ共にいたいからだなんて、幼い心は知らない。

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