空色の瞳にキスを。
4.年越しと赤狐
「あ、ファイー!」
偽名を呼ぶことにようやく慣れてきたトーヤが、屋敷の門を抜けて玄関ホールへ入ってきた二人に声をかけた。
皆が忙しく動き回っているホールにトーヤの大きな声が響いて、少しファイが狼狽える。
茶髪の少年が大きな木箱を抱えてこちらへ向かって嬉しそうに駆けてくる。
その後ろにはふわふわと浮いて彼の後をついてくる箱達は彼の魔術の成せる術だろう。
一月前はそれだけで辛い顔を浮かべていた少年は、驚きの成長を見せていた。
開発されて、芽が出始めていた攻撃魔術の才能を上手く伸ばすと、めきめきと力をつけて。
今では辛うじてだが、黒猫の相手ができるほどへと成長した。
だけど同じ戦場に立とうとしなければナナセにとっては、いつもと変わらないトーヤで。
いつもと同じ穏やかな口調で、トーヤに尋ねた。
「トーヤ。
訓練はもういいの?」
「うん、今日の分は終わった!
あとは魔法武術を使うためには体力がいるんだって。」
ニカッと歯を見せて笑う顔がまだ少年の色を残していて、背丈と不釣り合いな状況が少しおかしい。
「それで、手伝っているのね。」
くすりと淡い笑みを浮かべれば、トーヤは軽く頷いて口をへの時に曲げる。
「そう。
修行とか言って、スズランの奴、俺をこき使ってくるんだけど。」
大袈裟にため息を吐く様子があんまりにも可笑しくて小さな笑い声を溢す。
「あ、そうだ。
二人が帰ってきたら言っておけってスズランが言ってたんだけど。」
─やっぱり忙しい時に屋敷を抜け出したのは、ばれていたのね。
ちょっと気まずさを覚えて、ファイは黒い瞳を壁際に飾られた色鮮やかな花へと流す。
帽子を被ったままの黒猫の少年と、偽物の姿の少年に向かってトーヤが続けた。
「年越しの日は、年が明けるまでのパーティーがあるんだって。」
ファイ屋敷を抜け出したことに、それ以上の追及がなかったからほっとする。
それに神経を使っていて、トーヤの話が他人事みたいに聞こえたファイは、ぼんやりと相槌だけ打つ。
「へぇ…。」
「まさか、俺達にも出席はさせないだろうな?」
反応が薄い黒髪の少女に対して、嫌な予感しかしない黒髪の少年は問い返す。
「ないでしょう?
だってあたし達、逃げている人たちばっかりだよ?」
ルグィンの嫌な予感が伝わったのか、隣を見上げて笑うファイの笑顔が心なしかひきつっている。
「え、そのつもりらしいけど。」
二人に向かってさらりと口にした焦げ茶の髪のトーヤの言葉に、ファイは固まる。
「そっか…。
穏やかすぎて忘れていたけど、俺らって逃亡者なんだなぁ…。」
ぼんやりと呟いたトーヤの小さな独り言も放っておいて、ファイは声が出せなくなる。
「やっぱりか。それで?」
ため息混じりで先を促した黒猫の少年に、トーヤは口を開いた。
「だから明後日は試着だってさ。」
「え…。」
さー、と血の気が引いていく。
またスズランの着せ替え大会が始まるのだと思うと、ファイは気が気でならなかった。
偽名を呼ぶことにようやく慣れてきたトーヤが、屋敷の門を抜けて玄関ホールへ入ってきた二人に声をかけた。
皆が忙しく動き回っているホールにトーヤの大きな声が響いて、少しファイが狼狽える。
茶髪の少年が大きな木箱を抱えてこちらへ向かって嬉しそうに駆けてくる。
その後ろにはふわふわと浮いて彼の後をついてくる箱達は彼の魔術の成せる術だろう。
一月前はそれだけで辛い顔を浮かべていた少年は、驚きの成長を見せていた。
開発されて、芽が出始めていた攻撃魔術の才能を上手く伸ばすと、めきめきと力をつけて。
今では辛うじてだが、黒猫の相手ができるほどへと成長した。
だけど同じ戦場に立とうとしなければナナセにとっては、いつもと変わらないトーヤで。
いつもと同じ穏やかな口調で、トーヤに尋ねた。
「トーヤ。
訓練はもういいの?」
「うん、今日の分は終わった!
あとは魔法武術を使うためには体力がいるんだって。」
ニカッと歯を見せて笑う顔がまだ少年の色を残していて、背丈と不釣り合いな状況が少しおかしい。
「それで、手伝っているのね。」
くすりと淡い笑みを浮かべれば、トーヤは軽く頷いて口をへの時に曲げる。
「そう。
修行とか言って、スズランの奴、俺をこき使ってくるんだけど。」
大袈裟にため息を吐く様子があんまりにも可笑しくて小さな笑い声を溢す。
「あ、そうだ。
二人が帰ってきたら言っておけってスズランが言ってたんだけど。」
─やっぱり忙しい時に屋敷を抜け出したのは、ばれていたのね。
ちょっと気まずさを覚えて、ファイは黒い瞳を壁際に飾られた色鮮やかな花へと流す。
帽子を被ったままの黒猫の少年と、偽物の姿の少年に向かってトーヤが続けた。
「年越しの日は、年が明けるまでのパーティーがあるんだって。」
ファイ屋敷を抜け出したことに、それ以上の追及がなかったからほっとする。
それに神経を使っていて、トーヤの話が他人事みたいに聞こえたファイは、ぼんやりと相槌だけ打つ。
「へぇ…。」
「まさか、俺達にも出席はさせないだろうな?」
反応が薄い黒髪の少女に対して、嫌な予感しかしない黒髪の少年は問い返す。
「ないでしょう?
だってあたし達、逃げている人たちばっかりだよ?」
ルグィンの嫌な予感が伝わったのか、隣を見上げて笑うファイの笑顔が心なしかひきつっている。
「え、そのつもりらしいけど。」
二人に向かってさらりと口にした焦げ茶の髪のトーヤの言葉に、ファイは固まる。
「そっか…。
穏やかすぎて忘れていたけど、俺らって逃亡者なんだなぁ…。」
ぼんやりと呟いたトーヤの小さな独り言も放っておいて、ファイは声が出せなくなる。
「やっぱりか。それで?」
ため息混じりで先を促した黒猫の少年に、トーヤは口を開いた。
「だから明後日は試着だってさ。」
「え…。」
さー、と血の気が引いていく。
またスズランの着せ替え大会が始まるのだと思うと、ファイは気が気でならなかった。