空色の瞳にキスを。
あからさまに落ち込むトーヤに嫌な顔もせず、彼は笑顔のまま答える。

「あぁ、スズランとナナセさんは奥の部屋ですよ?

嬉々として黒髪のナナセさんを引っ張って歩くスズランを先程見かけましたから。」

「へぇ…。
なにしてるんだろ。」

そう不思議がるトーヤに対して、ひきつった笑みを浮かべて、視線を外すアズキはなにか思い当たる節があったようで。

「…分かった気がする。」

ふふふ、と中性的な顔立ちに甘い笑顔を浮かべて笑うリク。

「そうですよアズキさん。

当たりです。」

人指し指をスッ、と立てて顔の前で止めてくすりと笑う金髪の美青年。

それにアズキがやっぱり、とでも言うような意味ありげな笑みを返して、トーヤが口をへの字に曲げて。


そんな時、部屋の奥の扉が勢いよく開いた。

バン、と大きな音がしたのだってお構い無し。
豪快に開けた扉の音に負けないスズランの声が響いた。

「ねぇちょっと見て!

可愛くないかしら!」

ナナセの肩に両手を添えて、弾けるような笑顔で顔を覗かせるスズラン。

その声に皆が同じ方へと視線をやった。

「わっ…!」

どん、と獅子の少女に押されてつんのめるようにして出てきた、銀の少女。
皆の視線の中で、銀が流れてふわりと揺れた。

スズランの着せ替えを無理矢理見せるこの状況に、ルグィンはなんとなく既視感を覚えるが。
予想していた姿とは全く違って、余裕を仮面にして視線を離すことができない。

「え…?」

トーヤの間の抜けた声は、急に静まった部屋に浮いてしまう。

きゅ、と唇を引き結んで、視線をふらふらと泳がせる銀の少女のその姿。

「え…?」

また、トーヤの声が部屋の空気にそぐわなくてぽっかりと宙に浮く。

他の3人は驚きで言葉も出なくて。


皆が作る沈黙に耐えられなくて、じわり、滲み始めた恥ずかしさに身に纏った青いドレスを握り混むナナセの姿が。

いつもとは、違って。

リクですら空色の瞳をいつもより見開いて固まっている。

恥ずかしそうに俯いたナナセに言葉を送ることで、リクが一番早く沈黙を埋めた。

「その姿は、いつもより王女様らしいですね。

そのお姿なら、どんな令嬢にも負けませんね。」

リクがお世辞無く誉める、視線の集まるナナセの姿は、ぐんと大人びていて。
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