空色の瞳にキスを。
年が終わる冬の冷たい夜、顔を突き合わせた二人の間だけ、熱がこもっている。

同じ空気を共有しているみたいに。


鮮やかな銀は、闇に融けて常人には見えない。
澄み切った金は、鼻が触れそうな彼女しか見えない。


金に見つめられて、夜が隠すには大きくなりすぎた彼女の想いが顔を出す。


ぽつんと胸に落ちたひとしずくの想いは、波紋となって広がる。


「あ…。」

目を丸く見開いて、ルグィンを見詰めたまま、掠れ声を落とした。

「…どうした?」

あんまりにも優しい声で、また切なくなったナナセは目の前のルグィンを見れなくて、俯く。

ぎゅう、と胸が痛くて、気を抜いたら泣きそうで。


震えた唇は、それでも嘘を紡いで。

「なんでも、ない。」

「なんでもなくは、ないだろ。」

なにかおかしい少女に、当たり前みたいに彼は問う。

ナコの一件を起こし辛そうな顔をさせたのは自分だが、それを通り越して急に泣きそうな表情を浮かべられると困惑する。
ただ落ち着かせようと伸ばした手の中には、微かな愛の欠片。

頭に添えられた手が、ゆっくりと目元へ向かって、涙を掬う。

壊れ物を扱うような、そんな仕草になぜかじんわりと胸が痛んで悲しくなる。

そっと撫でられた涙は黒い少年の腕を伝って、袖口に染み込む。

「泣くな、って。」

慰めるような、切なくなる声が彼女の心を震わせる。
目の前の人の全てが、ぎゅ、っと無性に悲しくなって、自分の胸をざわつかせる。

冴えた金色を見ることができなくて、目を伏せた。


─あ、ダメだ。

心が抑えきれなくて、ナナセの心に言葉が浮かぶより先に涙が盛り上がっていく。

銀色の睫毛に危うく乗った空色を映した涙がみるみる大きくなって、ぽろりと頬を滑り落ちた。

俯いた彼女から落とされた涙の滴に、ルグィンは一瞬息を止める。

─瞳の色を映した涙が落ちるのは、あんまりにも綺麗で。

─だけど、泣いてる彼女は見たくなくて。

ルグィンはその鼻先が触れる距離を、ゆっくりと埋めてゼロにした。

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