空色の瞳にキスを。
こんこん、と控えめなノックの音が朝のまだ静かな部屋に響く。
ちょうどアズキと暖炉の側で暖まりながら飲んだ紅茶のカップを片していたナナセは、扉を振り返る。
暖炉の前の肘掛け椅子の上で毛布にくるまっていたアズキも、そのノックをきっかけに、やっと暖かい毛布を名残惜しそうに立ち上がる。
廊下にいる人が投げる声をナナセが静かに待っていると、すぐに扉越しに声が聞こえてくる。
「私よ、スズランよ。
開けて頂戴?」
「はーい。」
聞き慣れた声に、返事をしながらナナセは柔らかい微笑みを浮かべてしまう。
扉を振り返らず、キッチンに立つナナセは大きめのカーディガンから伸びた濡れた手をひゅ、と降って扉へ魔力を送る。
かちりと軽い音と共に扉が開き、また誰かが鍵の呪(まじな)いをかける音がした。
そしてカートを転がす小気味のいい音がして、数人分の足音が部屋へ入ってくる。
─え、数人?
ナナセはここで疑問を抱いて、やっと獅子の彼女を振り返る。
彼女の淡い色したスカートが、嫌にゆっくりと空気を含んで膨らんで。
いつもの光景のはず、なのに。
みんなで朝食を摂るのは、毎日の習慣なのに。
見慣れたはずのその姿に、胸の奥の何処かが、変な音を奏でた。
「──ッ……」
掠れた声にもならなかった、間抜けなナナセ自身の声が耳へと届く。
声にならなかったそれをスズランの金の耳は拾ったのかピクリと動き、テーブルに皿を並べていた彼女自身もこちらを向く。
兄弟のいないナナセにとって、スズランは本当の姉のような存在。
いつも頼もしく思える何でもお見通しとでも言うような強い瞳は。
─こういう時には、怖いなぁ…。
スズランに真っ直ぐ見詰められたナナセは困って、息をつきたくなる。
表情に出すことはなかったが、彼女の金の混ざった明るい茶色の瞳は、拘束力があって。
逃げたくても、ナナセには逃げられなかった。
爛々と輝くその瞳と、色の良い唇が笑んでいく様を、蛇に睨まれた蛙のような心境で、ナナセは見ていた。
他のみんなもパタパタと朝食の用意をしているのに、その音が霞む位に、ナナセは逃げ場をなくして。
ちょうどアズキと暖炉の側で暖まりながら飲んだ紅茶のカップを片していたナナセは、扉を振り返る。
暖炉の前の肘掛け椅子の上で毛布にくるまっていたアズキも、そのノックをきっかけに、やっと暖かい毛布を名残惜しそうに立ち上がる。
廊下にいる人が投げる声をナナセが静かに待っていると、すぐに扉越しに声が聞こえてくる。
「私よ、スズランよ。
開けて頂戴?」
「はーい。」
聞き慣れた声に、返事をしながらナナセは柔らかい微笑みを浮かべてしまう。
扉を振り返らず、キッチンに立つナナセは大きめのカーディガンから伸びた濡れた手をひゅ、と降って扉へ魔力を送る。
かちりと軽い音と共に扉が開き、また誰かが鍵の呪(まじな)いをかける音がした。
そしてカートを転がす小気味のいい音がして、数人分の足音が部屋へ入ってくる。
─え、数人?
ナナセはここで疑問を抱いて、やっと獅子の彼女を振り返る。
彼女の淡い色したスカートが、嫌にゆっくりと空気を含んで膨らんで。
いつもの光景のはず、なのに。
みんなで朝食を摂るのは、毎日の習慣なのに。
見慣れたはずのその姿に、胸の奥の何処かが、変な音を奏でた。
「──ッ……」
掠れた声にもならなかった、間抜けなナナセ自身の声が耳へと届く。
声にならなかったそれをスズランの金の耳は拾ったのかピクリと動き、テーブルに皿を並べていた彼女自身もこちらを向く。
兄弟のいないナナセにとって、スズランは本当の姉のような存在。
いつも頼もしく思える何でもお見通しとでも言うような強い瞳は。
─こういう時には、怖いなぁ…。
スズランに真っ直ぐ見詰められたナナセは困って、息をつきたくなる。
表情に出すことはなかったが、彼女の金の混ざった明るい茶色の瞳は、拘束力があって。
逃げたくても、ナナセには逃げられなかった。
爛々と輝くその瞳と、色の良い唇が笑んでいく様を、蛇に睨まれた蛙のような心境で、ナナセは見ていた。
他のみんなもパタパタと朝食の用意をしているのに、その音が霞む位に、ナナセは逃げ場をなくして。