空色の瞳にキスを。
ごくり、銀色の彼女が喉を鳴らせば、怪しく微笑んだ獅子の顔は崩れて、心底満足そうな笑みへと変わる。

そして栗色の彼女はゆっくり口を開いて、声を通した。


「ねぇナナセ、貴女また髪が伸びたわね。
伸ばすんだっけ?」

「うん、伸ばしたいな。」


─それくらい、いいよね。


彼女にしては想いを引きずった、甘い考え。

銀髪を揺らして幸せそうに笑ったナナセに、スズランがニヤリと笑い、尋ねる。


「どうして?

どうして伸ばすの?」


その問いに、息が止まった心地がした。


─そんなの。

そんなの、決まっている。


─彼が似合うだろうって言ってくれたから。


そんなことは、口が裂けても言えない。


「んー…内緒。」


少しだけ頬を染めて、華奢な肩を揺らして明るく笑う、いつもと違うナナセにアズキが悟ったなんて。

そんなこと、先見の少女の目の前ではにかんで笑う少女は知らない。


ルグィンはなんのことか分からずに、彼女の声が聞こえる会話を聞いて楽しむだけの鈍感で。

トーヤに至っては声の聞こえない奥の部屋にいる。


─言える日は、来ないだろうから。

─せめて、恋だけはさせて。


そう心に閉じ込めて、ルグィンに自然に目を移す。

視線に気付いたのか、パンを並べていた手を止めて、空の瞳に金の瞳を合わせてくる。


金の瞳が、スッと細められる。

鋭さを持つその瞳に優しさを感じて。


持ったままだった紅茶のカップを握る手が震えて、きゅ、と息が止まって。

決意したばかりだと言うのに泣きそうになった。


あたしの表情が揺れたのか、ルグィンが視界の中で困った顔をした。


「─どうした?」

「あ、ううん、なんでもないよ。」


ナナセは笑って、首を振ったつもりだ。

ふわりといつものように笑うはずが、くしゃりと表情を崩すだけになってしまう。


だけど必死に笑ったナナセは、うまく笑えたかな、と思った。

< 285 / 331 >

この作品をシェア

pagetop