空色の瞳にキスを。
「「ごちそうさま。」」
「おいしかった!」
「美味かったー!」
「ごちそうさまでした。」

皆それぞれに食後の声をあげて、スプーンやフォークを置く。

最後の一人が食べ終えてから、一斉に言う感謝の言葉。
タチカワ流なのか、他の四人はやったことがなかったのものだが、これはとても心地良いものだった。


「さてアズキ、トーヤ。

行ってらっしゃい。
また後で行くわ。」

「おぅ!」
「はいっ!」

スズランの声に元気良く二人は部屋を飛び出していく。

朝の二人の特訓は、まだ続けられている。

二人が出ていった扉を見詰め、テーブルを拭く手を止めないで、スズランは軽く笑う。
その優しい金色にナナセもつられる。

「強くなったわね。」

「あんなに早く強くなったのは、スズランのお陰だよ。」

銀髪を揺らして、ナナセが笑顔で口にするその言葉に、スズランも口の端を上げる。

スズランは椅子に無造作に掛けられたアズキのカーディガンを見遣って、ありがとう、といつもの調子で呟いた。


その様子をちらりと見たルグィンは、何でもない風にポツリと言葉を溢した。

「でも、あれだけの早さで上達するには才能がないと難しい。
素質も、多分ある。」

ちょうど隣に立っていたルグィンの低い声が、ナナセの耳へと滑り込む。

何でもないように振る舞いつつ、見上げて紡ぐ。

「…そっか。」

隠すのが得意ではないナナセは、中途半端に本心が表れて、空色の瞳を伏せて、複雑な表情を浮かべた。
それに目敏く気付いた黒猫の少年は、隣に立つ彼女の白い前髪に細い指先で触れて、目が隠れないようにさらりと流す。

「後ろ向きに考えるな。」

「…はい。」


年上が諭すようなそれに、スズランは口元を隠してくすりと笑う。


行動一つ一つは意味がないはずのに。

重ねてみれば、二人には意味がある行為は、二人だけの言語のようで。

彼らだけの世界を作った、お互いに片想いだという二人の背を見て、綺麗な栗色の少女は小さくため息をつく。

誰も大きな声で喋らないから、ゆっくりと重ねられていく食器の音だけが響いて、それはなぜか胸の奥に染みていく。


幾分柔らかい男の声と、幾分泣きそうな女の声とがそっと重ねられるのを獅子は聞かない振りをする。



「さぁ、片付けに行きましょうか。」

頃合いを見計らって獅子の少女が声をかければ、空色がこちらを映して、ふわりと和らぐ。

「はーい。」

銀色の少女は振り向いて少し落ち着いた声を、黒髪の少年は頷くだけの返事を返した。

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