空色の瞳にキスを。
「私も探す!どんな子?」

彼女が尋ねれば、トーヤは迷いもなく答える。

「黒髪が背中まであって、茶色いコートを着ていて、青いスカートをはいてた。」

「分かった。」

「あと、どちらかというと大人しそうな雰囲気な美少女。」

その答えに彼女は驚いた。
トーヤは噂は好きなくせに、実は親しい人を騒ぎ立てる評価を嫌うから、あまりこういう評価を下さないのだ。
その彼にここまで言わせてしまう女の子は、どんなものなんだろうと、アズキは純粋にそう思う。

鞄は家の玄関に投げ込んで、制服のまま走り出す。
けれど、探しても探しても目当ての少女は見つからない。

二人して道端で名を呼んでも、当たり前のように答えは返ってこない。
近くの通行人に聞いても、誰も知らない。

ついには街の外れの小高い丘の上にある教会までやって来ていた。教会をぐるりと囲む静かな森は、静かだ。

二人とも声が枯れてもう叫ぶ気力もない。
周りを見回して目を凝らすだけ。
探した時間はとうに日の沈んだ夜空が物語っていた。

「つかれた……。」

根気強くトーヤに付き合った少女も草むらに身を投げ出す。

「どこにいるんだ?」

トーヤも隣に腰を下ろす。
秋が深まり始めた季節の夜の風は、寒さを連れてくる。

「寒いし、帰るか。
悪かったな、連れ回して。」

探している彼女はもうどこか泊まる場所を見つけたかもしれないし、この町を去ったかもしれない。

穏やかだけれど冷たい風が、草原を駆け抜ける。
アズキの髪がふわりと風になびいて、トーヤの視界に映り込む。

アズキはトーヤの労りなど耳に入っていないようで、起き上がって教会をとり付かれたように見る。

「歌が……聞こえた。」

「は?」

トーヤには歌なんか一切聞こえない。

夜の教会は白壁が不気味に輝いて、なにかが出てきてもおかしくない雰囲気を纏っていた。
聞こえないものを隣の少女が聞いているから、余計に恐ろしさに拍車がかかる。

もう彼女の耳にはその歌しか聞こえていないようで、立ち上がるとなにかに導かれるように教会へと歩き出した。

アズキはトーヤの制止も聞かず、ふらふらと教会に近付いていく。

先には何があるか分からないトーヤは恐ろしくなった。

「アズキ!」

アズキは耳に手を添えて、そばだてて、ぽろりと呟く。

「綺麗な声……。」

教会の重たい扉を音を立てて開くと、やっとトーヤにも微かに音が聞こえてきた。
静かな夜の教会の入り口にも微かな歌声が響く。

「上から、聞こえてる……。」

確かトーヤの記憶によれば、上は時計塔になっていたはずだ。
吹き抜けの教会の玄関ホールから時計塔へと続く螺旋の階段を仰ぎ見る。
トーヤは外からの僅かな光を頼りに、階段を凝視する。
アズキはぼんやりと数秒見つめて、階段へと歩き出す。

「高い……女の人の声だ。」

躊躇うことなくアズキは階段の脇にある手すりに手を伸ばして、カツリカツリと足音を響かせながら階段を上って行く。

目は定まっていない。
ぼんやりと、一点を見つめている幼なじみに少しだけ冷水を浴びせられたような恐ろしさを感じた。

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