空色の瞳にキスを。
ひとしきりアズキと笑いあった後、ナナセはルグィンに目配せをして。

「アズキ。」

名を呼ばれて、アズキが見つめた銀の少女の薄い青の瞳は、うっすらと緊張が窺えた。
ひやりと冷たい彼女の手に、掴まれて、不思議に思いながらもなにが起こるか聞ける雰囲気ではなかった。

アズキの手を引いて、ナナセは5歩ほど先にいるスズランとトーヤの元へと歩き出す。

彼女の様子に扉をちらりと見遣った獅子の少女は、黒猫の少年に一度だけ鋭い眼差しを見せた。

それにルグィンもスッと視線を扉に向けて、またスズランを睨むと彼女は挑発的な笑みを浮かべる。

一瞬見せた鋭い瞳を見てしまったナナセは、栗色の髪の彼女を恐る恐る見上げて口を開いた。

「スズラン。
…ちょっと、いいかな。」

決意をほんのりと映し出す空色に、スズランは唇に小さく笑みを乗せて。

「えぇ。」


強張った唇に乗せられた震えた声は、静まり返ったこの部屋に広がっていく。

「スズラン、アズキ、トーヤ。

ここに来たとき、迷っていた未来の話、ちゃんと決めたよ。」

その言葉が唐突で、身構えていなかったアズキとトーヤは呆然とする中、一呼吸を置いて彼女は続ける。


揺れて、悩む瞳は、今は揺れない。

淡さの残った、深い、青。


「沢山の人に迷惑をかけて、父さんのことがあって。

だけど、それでも私を望む人がいてくれるなら。


あたし、王様に…なりたい。」


ぎゅ、と小さな拳が太股のそばで握られていて、それが言う怖さだと、アズキは気付く。

─もしかして、訓練の終わる時間をあのナナセが読み違えたのは、緊張から…?

まだ呆然とするアズキが、心の隅でそう思った。


言い終えてしばらくして、そっとスズランを見上げると前から知っていたからか優しい微笑みを返してくれた。
励ますようなそれに釘付けになっているナナセに、ナナセの言葉をやっと理解したトーヤは驚きを隠せず言葉が零れる。

「本気かよ…。」

「…勿論。」


アズキはふわりと笑顔を浮かべて、涙の膜を張ったその瞳でナナセを見つめる。

「私、力になるからね。」

「…俺だって、力になりたいから。」

「スズランもだよね!」

「勿論。貴方達の為なら出来ることはなんでもするわよ?」

いつもの如く明るいアズキと、妖艶なスズラン。
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