空色の瞳にキスを。
瞳を閉じれば浮かぶのは、好きと気付いた少年の姿ばかり。


─この国を、救って。


そう自分に願った、優しい、低い声音。

それを叶えたいと、思う。

願われなくたって叶えていたはずだけれども、人の願いを託されるのは、予想よりも重たくって。

自分を王へ、と願う人がいるのは、嬉しく、重たいものだと痛感する。

王になればきっと、スズランやルグィンと今のままでいることは叶わない。
きっと、彼らの見てくれを恐れて関係だって絶たれるはず。

あたしにはそれを弁明することはできるけれど、どこまで変えられるか分からない。


─そんな不安要素のある人を、好きだとあたしが言ってしまえば、どうなるのかな。


先の事ばかりが不安になって、ナナセに今が見えなくなる。


─あたしの想いと、あたしの願いは道が違う。


─彼の願いを無駄にしたくは、ない。


がっかりさせたくないという気持ちの方が彼女には強くて。


願いを叶えるためには、自分が王になるには、諦めなきゃならないのだとナナセは必死に心に鍵をかける。

けれども鍵は上手くかからずに、想いはじわりと心に広がる。


─自分では全く意識をしていなかったはず。


なのに、なのに。

気付けばあたしはあの黒猫色で。

その自覚をした途端、どれだけ彼の存在が大きな場所を閉めていたかを思い知る。


ベッドの脇に座っていたナナセはどうしようもなくてそのまま布団へと倒れれば、ぼす、と空虚な音が鳴る。

高級で柔らかい布団に包まれる自分が、訳もわからずどうしようもなく悲しかった。


しばらく天井を呆けたように見詰めていたが、突然堪えきれなくなって。

キリリと歯が鳴って、目元が濡れて。

「──ッ─…。」

瞬間、天井を見上げていた空色がぐらりと揺れる。


心を抑えるには気付くのが遅すぎたその想いは、もう止まらない。

初恋に身動きがとれなくなった、恋を知らない彼女の叫びは、ナナセ自身をゆっくりと追い込む。


─あんなに好きなあの人は好くことだって許されないと、好きになってから知るなんて。



両腕で涙が滲む目を隠して、声を抑えるその姿は、しばらく前から起きていたアズキにはしっかりと見えていた。


だけど、こんなに脆い彼女を見たことがなくて。

声のかけ方を見失って。

ただ、息を潜めて見守ることしか出来なかった。

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