空色の瞳にキスを。
暖炉の前に椅子を置き、互いに体を預けあった少女がいるだけの静かな朝。

「あたし、夢を見たの。

馬鹿みたいな、ただの夢…。」


どこかひやりとした部屋の空気に、彼女に似合わない弱い声がぽつりと浮かぶ。

自分を馬鹿にする台詞は滅多に口にしない彼女が、悲しさの滲む瞳で虚空を見詰める。


その顔が酷く印象的で、アズキは目を離せない。


先見の少女はゆっくり、彼女の台詞を反芻する。


「夢…?」


隣に座る先見の少女に銀髪の彼女の視線が流れて。

空色と、かち合う。


「うん、昔話のただの夢。」

そう微笑んだ彼女の瞳が、くらりと泣きそうに揺れた。

視線を外して暖炉を映すその空色が、ただの空色じゃなくて。

炎が映る悲しげな色にぎくりとして、何の話が始まるのかとアズキは無意識に身構える。

ナナセの手が、ぎゅっとカップを握り直した。


「あのね、『リーゼロットの翼』って、知ってる?」

「リーゼ…ロット?」

ナナセの震える唇を見て、落とされた言葉にアズキは首を振る。

「…そっ…か。」

銀の少女の強張っていた肩から力が抜ける。
それきり俯き黙り込んでしまったナナセに、アズキはかける言葉を見失う。

─知らないとは、嘘ではない。

けれど今自分がその話を知っていたら、銀の少女に寄り添えるのかと思うと、歯痒い。

聞くのは怖くて、でも思いを共有したくて。

なかなか一歩を踏み出せないでいるアズキは、伏せられた青い瞳を見詰めた。

口を開くが、言葉にならない。

俯く彼女は、視線を逃がすようにして、また呟く。

「…昔話なんだけど、聞いてくれる?」

似合わない弱々しい声音。

糸に引かれるように頷いたアズキに、彼女は一呼吸置いて話始めた。
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